吉尾耳鼻咽喉科医院

横浜市神奈川区西神奈川の耳鼻咽喉科 吉尾耳鼻咽喉科医院

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最も頻度の高いめまい「良性発作性頭位めまい症」について

1.内耳の構造と平衡機能について

人の耳の奥には音を伝える蝸牛(かぎゅう)のほかに、からだのバランスをとる耳石器(じせきき)と三半規管(さんはんきかん)が一緒になった内耳と呼ばれる器官があります。このうち耳石器は蝸牛と三半規管にはさまれた中間に位置し、中にリンパ液を満たしています。そこに毛のはえた細胞(有毛細胞)が毛をその空間の中央に向けてびっしりと平面状に並び、毛にはゼリー状の物質が付着し、さらにその外側には耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの沈着物をのせて、まるでドームの形をしています。この耳石器には球形と卵形をしたものが左右の内耳にそれぞれ一対ずつあり、重力とかバスが急に発車する時のような直線加速度が加わるとその耳石の重みでどちらかにその毛が傾いて、その有毛細胞が興奮します。それにより頭が重力に対してどの方向を向いているのか、あるいは頭がどの方向に向っているのかという情報を即座に脳の延髄にあるバランスの中枢である前庭神経核というところへ送り、さらにその情報は瞬時に周囲の景色をしっかりと捉えるために目を動かし(前庭眼反射)たり、からだのバランスをとるための姿勢反射(前庭脊髄反射)を起こしたりします。

また、三半規管は中にリンパ液を満たした管腔の輪が前方向45度(前半規管)、後方向45度(後半規管)と水平方向(水平半規管)の角度についていて、それぞれが直角に交わり、先程の卵形の耳石器の空間(卵形嚢)につながっています。水を入れたバケツを回したときのようにバケツを回す方向と全く正反対に中の水が動くのと同じように、それぞれの半規管の中のリンパ液も頭の回る方向と正反対に流れます。半規管の中のリンパ液の流れを感知するのはクプラというゼリー状の樹状体とそれを支えている有毛細胞たちです(それぞれの半規管の端の一部がやや太くなった膨大部と呼ばれる部位にあります)が、全ての半規管のクプラがどの方向にどれだけ屈曲するかにより、頭の回る方向や速度の情報が即座に前庭神経核へ送られ、同時に前庭眼反射や前庭脊髄反射を起こします。

ここで、これまでの説明文だけからは理解しにくいかも知れませんので、試しにご自分の顔を鏡の前で左右、上下、斜めに振ったり、あるいは時計回りや反時計回りに顔を傾けてみてください。目は常に顔と正反対の方向に動いて、顔が動いても視線(目の向いている方向)がぶれないような仕組みになっているのがお解かりでしょうか。この反射(前庭眼反射)は最も古い原始反射で、顔を左→右に振ればほぼ同時に目は右→左に動きます(「人形の目現象」と言われます)。意識のない人でも脳幹(生命維持に欠かせない脳)が生きていれば起こるバランス保持の仕組みなのです。そして人間などの動物では歩行の際などに顔が動いていても視線の先の一点を見定めることを可能にしているのです。
ところが、この当たり前の反射が出来なくなった時に周囲と自分の空間認識に「ずれ」が生じ、ふらついたり回ったりする症状、つまり「めまい」が起こってくるのです。

 

2.めまいで一番頻度の高い良性発作性頭位めまい症の症状と治療法について

めまいを起こす病気のうちの大部分が「良性発作性頭位めまい症」という病気です。これは耳石器の耳石の一部がはがれた浮遊耳石がリンパ液中を漂い、隣りにある半規管の中に迷い込んで発症いたします。このはがれた浮遊耳石が半規管の中を移動するようになったのが「半規管結石症」、また浮遊耳石がクプラに付着したのが「クプラ結石症」と言います。この浮遊耳石は人が夜間、上や横を向いて寝ていることが多いため後半規管と水平半規管に入り込むことが多いのです。では、良性発作性頭位めまい症はどのような症状になるのでしょうか?

最も頻度の高い「後半規管型結石症」の場合は起き上がったり(臥位→座位)、横になったり(座位→臥位)する時に時計回りや反時計回りにグルグル世の中が回るめまいが起こり、起き上がった時と横になった時で回る方向が逆転します。そして、そのまま頭の位置を保っていると回転がおさまってくるのが特徴です。また、「水平半規管型結石症」では左右に寝返りをすると、その寝返りした方向に世の中が回転し、その頭の位置を保っていると回転がおさまってくるのが特徴です。

そして、これらの半規管結石症の治療でもっとも有効な方法は、この迷入結石(迷い込んだ浮遊耳石)をクプラの付いていない方向へ頭を動かして元の卵形の耳石器の空間(卵形嚢)へ排出させることです。これにより一発でめまいを治すことが出来るのです!しかし、注意しなければいけないのは素人判断で回す方向を間違えるとクプラ結石症となり、より激しいめまいになってしまうことです。この場合は結石がクプラからはがれるのを待たなければなりません。このクプラ結石症の中で頻度の高いものに「水平半規管型クプラ結石症」がありますが、左右に寝返りすると寝返りした方向と逆の方向に世の中が回転し続けるのが特徴です。

この場合、正面に近い位置で回転しない頭の位置に保って休むことをお勧めしています。吐き気を伴う人は酔い止めなどの薬を飲みつつ、治癒または半規管結石症に移行するのを待ちます。また、良性発作性頭位めまい症を反復する患者さんでは、再度、半規管内に浮遊耳石が入り込まないように、普段よりも少し高目の枕で正面を向いて就寝することをお勧めします。また、めまい症状を現わさない程度の少量の迷入結石の段階で半規管から排除して再発を防ぐことが可能な場合があり、その人に合った体操(理学療法)をお教えすることが出来ます。